特別対談

山本昌子映画『REALVOICE』監督
村木厚子首都圏若者サポートネットワーク 顧問

若者たちのリアル・ボイスが教えてくれる虐待と家族のこと

【前編】

社会的養護のもとで育った人をはじめとする、親を頼ることができない子ども・若者たち。そのなかには児童虐待を受けた経験をもつ人たちも多くいます。虐待を受けた経験は、虐待を受けている期間だけでなく、その後の人生においても精神面などに大きなダメージを残します。しかし、当事者の抱える生きづらさを実感をもってイメージすることは、なかなか難しいものです。

そんな虐待を受けた経験をもつ人たちのリアルな声・姿にふれることができるドキュメンタリー映画が『REALVOICE』です。同映画を監督したのは、社会的養護出身者であり、現在は支援者として子ども・若者たちに関わるかたわら、講演や研修、メディア出演などによって社会への発信も積極的におこなっている山本昌子さん。

山本さんが運営する社会的養護出身者や虐待された経験をもつ人たちが集まれる居場所「まこHOUSE」に、首都圏若者サポートネットワーク顧問の村木厚子が訪問し、『REALVOICE』を山本さんと一緒に鑑賞しました。この記事では、映画鑑賞後に交わされた対話の様子をお届けします。

プロフィール

山本昌子(やまもと・まさこ)

『REALVOICE』監督
乳児院、児童養護施設、自立援助ホームで育つ(生後4ヶ月~19歳)。現在は保育士のかたわら、任意団体ACHAプロジェクト代表、児童養護施設情報発信YouTube番組「THREEFLAGS-希望の狼煙」メンバーとしても活動。講演・研修、新聞取材、テレビ出演なども多数。2025年度より首都圏若者サポートネットワーク アンバサダー。

出てくる人たちの言葉を、
そのまま受け止められる

村木:いま『REALVOICE』を見せてもらって、映画っていう手段がすごいなとあらためて思いました。『親が悪い、だけじゃない 虐待経験者たちのREAL VOICE』というまこちゃん(山本さん)の本をちょうど直前に読んできたんですけど、その本もすごい良かったんですよ。ただ、本だと自分の頭のなかでその人がどんなふうに話しているのかイメージしながら読むけど、うまく想像できない人も出てきたりするんですよね。

それが映画だと、こんなテンポでしゃべるんだとか、こんな言い方をするんだとか、そういうところが伝わってきて。それが分かると、自分の想像のバイアスを抜きにして、出てくる人たちの言葉をそのまま受け止められるんですよね。それがすごいなと思いながら見ていました。

山本:ありがとうございます。でも、最初は自分で映画を撮ろうとは思ってなかったんです。それこそ『REALVOICE』を一緒につくった西坂來人は、私やブローハン聡と三人でやっている「THREE FLAGS -希望の狼煙-」というYouTube番組でも映像制作を担当しているし、仕事としても映像制作をしていて。だから最初、(西坂)ライトさんに「撮ってほしい」って言ったんです。そうしたら、「自分で撮ったら?」って言われて。

ライトさんの意図としては、私が撮ることで型にはまったものとは違う、私がカメラを回すことでしか写せない絵があるんじゃないかって思ってくれたみたいで。「自分がフォローするから、自分で撮ったら?」って言ってくれたんです。その言葉を聞いて、撮ろう!と思って、その日の夜にAmazonでビデオカメラを買いました。

あとは、コロナ禍で支援を必要としている子が増えたこともあって、北海道から沖縄まで、たくさんの子とつながったんです。だけど、ほとんどの子はLINEでつながっているだけで、食品の支援とかをしてはいても、実際には会えたことがなくて。だけど映画を撮れば、みんなに会いに行く理由ができるじゃん!というのも、ちょうどよくマッチして映画を自分で撮ることになったんです。

ドキュメンタリーを撮ることの重みを、めちゃくちゃ実感しました

村木:普通は、カメラがあると意識すると思うし、短い言葉だけの人たちはやっぱり「この一言」ってつくっているんだろうと思うけれど、メインのメンバーはすごく自然体でまこちゃんと会話していて。その場面にたまたま自分たちも居合わせて、その様子を隣から見ているような感じだったから、それもすごいと思いました。

山本:ありがとうございます。メインキャストは、長く関わっていて関係性ができている子たちだったっていうこともあると思います。

実は『REALVOICE』って、最初の予定ではメインキャストが5人いたんです。だけど、そのうち4人が、いざ撮影をするとなったら「やっぱ無理」となってしまって。唯一、「私は絶対やりきるわ!」みたいな感じで残ってくれたのが、あの元気ハツラツなしおんちゃん。カメラが回ってなくても、あんな感じなんですよ、あの子って。

虐待は大人になったからって終わりじゃないという、けっこう重たいテーマを扱っているけれど、暗い映画にはしたくなかったんです。だから、天真爛漫さというか、一緒にポジティブに明るく発信してくれるだろうなっていう期待があって彼女にお願いしたところもあります。

山本:ただ、めちゃくちゃ素直な子だから、映画のなかで11年ぶりの里帰りで福島に一緒に行ったときとかすごく不機嫌で(笑)。自分で撮影のOKも出したし、旅費も出してもらっているけど、やっぱりこの大事な瞬間とちゃんと向き合いたい、大切にしたいという葛藤が全面に出ていたんです。

ドキュメンタリーで密着するって、普段は明るいし、やさしいし、そういうのを出さないタイプのしおんみたいな子でも、ピリピリするくらい精神的負担が大きいものなんだなということも感じました。そのときに、ドキュメンタリーを撮ることの重みをめちゃくちゃ実感しました。この映画を撮って何も伝えられなかったら、本当にただ搾取しているだけになってしまうなと。

プライベートというか、人生の大事な瞬間に密着されるというのが、本当に負担がかかることだからこそ、しおんとも話し合ってお葬式は撮らないとか、お母さんに会いに行くときもついていかずに近所で待っているという判断にしたんです。映画祭に出したときには、「大事なシーンが撮れていない」って怒られたんですけど。

村木:そうなんですか。でも考えたら、映画のたかだか2時間のなかに、彼女にとってものすごく辛い場面とか、人生の重要な場面が入っていて。しかも、ねらってやったわけじゃなくて、偶然にそれが入ってきたわけでしょ。

山本:そうなんですよ。私もびっくりしました。

村木:そのなかで彼女も、自分で判断しながらだもんね。それは負担も大きいよね。