若者をとりまく現状

若者をとりまく現状(2022年3月更新)

社会的養護について

みなさんは「社会的養護」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。親などの保護者がいなかったり、適切な養育を受けられなかったりする子どもたちを、公的な責任で保護し、育てていくことを「社会的養護」と言います。

いわば、社会が親代わりとなって、子どもたちを育てていく仕組み。それが社会的養護です。

貧困や虐待、両親の不慮の事故・病気など、その背景はさまざまですが、日本には社会的養護を受けている子どもたちが、約4万5千人います。子どもが500人いれば、そのうち1人は社会的養護を受けている計算になります。

児童虐待と社会的養護

社会的養護の形態はいくつかありますが、とりわけ人数として多いのが児童養護施設です。全国に約600ヵ所ある施設に、約2万4千人の子どもたちが暮らしています
※参照:https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf

戦後の孤児院のイメージもあり、親と死別した子どもが入る施設と思われがちな児童養護施設。しかし、近年の入所理由でもっとも多いのは、親からの虐待です。

チャート:虐待を受けた体験をもつ社会的養護の子どもの割合

厚生労働省の2018(平成30)年の調査では、児童養護施設に入所している子どもの65.6%、乳児院に入所している子どもの40.9%が、過去に虐待を受けた経験があるという調査結果が出ています。

虐待を受けた経験は、子どもたちの心に大きな傷を残します。かなりの個人差はありますが、大人になってもその後遺症に悩まされるなど、生きるうえでの困難を感じる被虐待経験者が多数います。

成長の過程でぶつかる大きな壁

ただでさえ虐待などのつらい経験をしていることが多い社会的養護の子どもたちですが、彼らは成長して社会に巣立とうとする際にも厳しい現実に直面します。

現行制度のもとでは、児童養護施設・里親での「措置」(=その施設などに入居していられる期間)は原則として18歳まで。「措置延長」は最長で満20歳までとなっています(自立援助ホームの場合は、22歳に達する日の属する年度の末日まで)。つまり彼/彼女たちは、原則的として18歳になると施設や里親家庭を出て自分の力だけで自立することを求められるのです。(※2022年2月に厚生労働省は自立支援の年齢制限を撤廃する方針を決定)

社会的養護のもとで育った子ども・若者は、親や親族などに頼ることができないことが多く、学費や生活費などもすべて自分で働いたお金でまかなわなければなりません。

一般的に考えて18歳前後の若者が大人たちのサポートなしに自立するには、多くの困難があります。子ども時代のつらい経験やその後遺症がある若者ならばなおさらです。

さらに当事者の若者が置かれている状況が困難であればあるほど、現行の支援制度では対応ができません。そんな支援制度の網からこぼれ落ちてしまう若者たちに対して、心ある人たちの持ち出しによって伴走型の支援がおこなわれているのが現状です。

しかし、伴走者たちによる持ち出しでの活動には限界があります……

そこで若者に寄り添う伴走型の支援をおこなっている「伴走者」たちの活動を助成することで、社会的養護のもとで育った子ども・若者たちの困難をサポートする「若者おうえん基金」が生まれました。

社会的養護を巣立つ若者が抱える困難と支援の例

社会的養護のもとで育った子ども・若者たちは、具体的にどのような困難を抱え、伴走者たちのどのような支援を必要としているのでしょうか。当事者が抱える困難は人によってさまざまですが、ここでは過去に若者おうえん基金が助成した二人の若者のケースをご紹介します。

若者Aさんのケース

背景:Aさんは、幼少期より養父からの身体的虐待を受けて育ちました。小学生の時に児童養護施設に保護され、高校卒業までその施設で暮らしました。その後、家庭に戻りますが、虐待が繰り返され、着の身着のままで家から逃げます。放浪生活を続け自立援助ホームに入所するも、職員との折り合いが悪く退寮。デリヘルの仕事を始め心身に支障をきたしたところで、若者おうえん基金の助成先団体の支援につながりました。

支援内容:女性相談の窓口でシェルター入所の説明を受けるも、家庭、児童養護施設、自立援助ホームを経て、他者と暮らすことでの大きなストレスを感じてきたこともあり本人は入所を拒否。そこで若者おうえん基金の助成金を活用した支援によって、アパート契約や生活費の管理などのサポートを受け、一人で安心して生活できる住環境をようやく得ることができました。また、フルタイムの仕事に就くことを目標にし、月に一度の精神科の通院にも助成先団体の職員による同行サポートを受けました。

成果:生活保護を申請することなしに就職し、自活生活にいたれたことが本人の大きな自信につながりました。一度生活保護につながると生活スタイルを変えることが難しいため、生活保護なしのサポートができたことは成果といえます。

若者Bさんのケース

背景:Bさんは、生活保護世帯の母子家庭で暮らしていましたが、母子関係が悪化したため若者おうえん基金の助成先である自立援助ホームに入居しました。遅刻欠勤もほとんどなく継続して働くことはできていましたが、Bさんには経済的な理由から諦めた夢がありました。ペットトリマーになることです。自立援助ホームで暮らしながら仕事に通い、高卒認定試験に合格したBさん。ペットトリマーの専門学校に入学し、自立援助ホームを退居しました。しかし、ホームを退去したからといって支援が必要なくなるわけではありません。

支援内容:若者おうえん基金の助成金も含めた学費や生活費の補助を受けながら、定期的なホームへの来訪も続け、学業と生活を安定した状態で続けることができました。専門学校の卒業まで残り1年があるため、自立援助ホームによる卒業支援も継続する予定です。

成果:自立援助ホーム出身の若者が高等教育へ進学し、卒業への支援を受けることが可能となりました。自立援助ホームの入居者は、児童養護施設にいる若者に比べて活用できる奨学金が限定されており、そのぶん大学や専門学校などの高等教育への進学が困難です(令和元年5月の調査によると児童養護施設における高校卒業後の進学率ですら28.3%と高卒者全体での進学率73.6%と比べてかなり低い)。「卒業までの修学・生活支援(卒業支援)は、今後の社会的養護関係施設に必須の取組となるだろう」と助成先団体の職員は語っています。

新型コロナで浮き彫りになる困難

先に書いたとおり、社会的養護のもとで育った若者の多くは親や親族などに頼ることができません。つまり病気などで体調を崩したり、仕事を失ったりすれば、誰にも助けを求めることができず、住む場所や食べるものにさえ困ってしまうのです。

社会的養護から巣立った若者への新型コロナウイルスの影響については、NHKによる次の取材記事にも具体的な事例をとおしてまとめられています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200717/k10012520331000.html

若者おうえん基金の仕組みと実績

若者おうえん基金

若者おうえん基金の最大の特徴は、伴走者への助成を通じて困難を抱えた子ども・若者たちを支援することです。みなさまから広くご支援を募り、集まったお金を助成金として伴走者たちへ給付し、子ども・若者たちの支援に役立てます。

チャート:若者おうえん基金の活用イメージ

2018年度

(第1回若者おうえん基金 基金造成)

クラウドファンディングや銀行振込によるご寄付、生活クラブの組合員カンパなどによって基金を造成し、公募選考を経て下記のとおり助成を実施しました。

基金造成額:13,713,509円
助成件数:9団体10件
助成総額:10,567,020円

2019年度

(第2回若者おうえん基金 基金造成)

クラウドファンディングや銀行振込によるご寄付、生活クラブの組合員カンパなどによって基金を造成し、公募選考を経て下記のとおり助成を実施しました。

基金造成額:18,580,574円
助成件数:13団体14件
助成総額:14,751,000円

2020年2月〜5月

日本労働組合連合会のゆにふぁんとタイアップしたキャンペーンを実施しました。キャンペーンで集まった寄付金を財源に、公募選考を経た2団体への助成と新型コロナウイルス感染症で影響を受けた支援団体への新型コロナ緊急助成をおこないました。

ご寄付いただいた人数:520名
基金造成額:7,844,000円
2団体への助成総額:511,500円
新型コロナ緊急助成の助成団体数:全国の48団体
新型コロナ緊急助成総額:4,570,750円

2020年度

(第3回若者おうえん基金 基金造成)

クラウドファンディングや銀行振込によるご寄付、生活クラブの組合員カンパなどによって基金を造成し、公募選考を経て下記のとおり助成を実施しました。

基金造成額:22,057,162円
助成件数:14団体15件
助成総額:19,215,200円

若者おうえん基金の寄付金活用例

みなさまからのご寄付によって、このような支援が可能となります(必要な費用はケースによって前後する場合があります)。

チャート:支援に必要な費用の例

就労・キャリア支援事業とその必要性

若者おうえん基金による助成活動とは別に、首都圏若者サポートネットワークとして社会的養護を巣立つ若者たちの就労・キャリア支援にも取り組んでいます。
首都圏若者サポートネットワークの就労・キャリア支援

自立するために働くことにチャレンジするものの、アルバイト先で「なんでそんなことも分からないの!」と叱責され、怖くなってアルバイトを辞めてしまい、それによってさらに自信を失ってしまう。社会的養護を巣立つ若者たちの伴走支援者たちはこのような若者の姿をよく見るといいます。
このような若者たちは、怠惰でやる気がない人たちなのでしょうか。いいえ、けっしてそう言い切ることはできません。

虐待や不適切な養育による影響から、自己肯定感が低く、他者との信頼関係を構築することに困難を感じている。

障がいがあったり、グレーゾーンであったりするものの、見た目からはそれが分からないため、困難を理解されずトラブルになりやすい。

複雑な状況で育ってきたため、将来像や大人へのイメージが持てず、働くことへの想像力も養うことができない。

このような若者たちの抱える困難に対する配慮がないまま、いきなり一人前の従業員として働くことが求められる環境では、仕事を続けることすら難しいですし、やりがいを感じたり成長したりすることはより一層困難です。

だからこそ、就労自立の準備段階として、職場体験などを通して働く経験を積む機会とそれをサポートする仕組みが必要なのです。

さいごに

社会的養護のもとに育った子ども・若者たちが抱えている困難。その原因は、彼ら自身に問題があって生まれたものではけっしてありません。そもそも人は、自分ひとりの力で生きられるものでもありません。しかし、頼ることのできる身近な大人がいない子ども・若者たちが、この日本の社会にもたくさんいます。

だからこそ、同じ社会に暮らすみんなの力で、彼らが学び、働き、社会のメンバーとしてみずからの力を発揮して生きていくことを応援する仕組みが必要なのです。

ひとりひとりのできることには限りがあります。ですが、ひとりでも多くの方にご協力いただくことで、確実に支援できる子ども・若者の数は増えていきます。ご自身のできる範囲で結構です。「若者おうえん基金」をご支援いただけたらとても嬉しいです。

また、他の多くの社会課題と同じように、この社会的養護とそこで育った子ども・若者をとりまく問題もほとんど知られていません。関心をもっていただけたなら、みなさんの周りの方にもこのプロジェクトをお知らせいただけると幸いです。

いつの日かこのネットワークの存在が必要なくなる未来をめざし、精一杯がんばりますのでご支援をお願いいたします!

ご支援について

調査レポート

社会的養護リービングケア海外事例調査報告書 —イギリスおよびオンタリオ州(カナダ)

社会的養護リービングケア海外事例調査報告書 —イギリスおよびオンタリオ州(カナダ)

首都圏若者サポートネットワークの活動のヒントを得るために、イギリスとカナダ・オンタリオ州の事例を収集し、作成した調査レポート。本報告書はパルシステム 「地域づくり基金」 の助成を受けて作成しました。

自立援助ホームの若者の就労自立支援スキーム構築のための調査報告書 —体験就労プログラムのモデル化を目指して

自立援助ホームの若者の就労自立支援スキーム構築のための調査報告書 —体験就労プログラムのモデル化を目指して

三菱財団の助成を受けておこなった自立援助ホームの若者の就労自立支援スキーム構築のために実施した体験就労プログラムの調査報告書です。