特別対談

山本昌子映画『REALVOICE』監督
村木厚子首都圏若者サポートネットワーク 顧問

若者たちのリアル・ボイスが教えてくれる虐待と家族のこと

【後編】

一緒に生きてきた大切な時間がある

山本:もう一人のメインキャスト・あやちゃんは、最初にメインで声をかけた5人のなかには入っていなかったんです。彼女は言語化能力もすごく高いし、映画を見る人たちにとって間違いなく大事なことを話してくれる。だけど、撮影当時、かなり厳しい状況にあったこともあって、彼女の人生にとって映画に出ることが良いものになるという自信がもてず、声をかけなかったんです。

だけど、映画の撮影がはじまったら、「私、やりたかったです」「今度そういうことがあったら、やらせてください」と本人から言われて。それで、しおんちゃんを撮り終えたあと、映画にするためにやっぱりもう一人撮りたいと思ったときに、あやちゃんにとって負担の少ないかたちで出てもらうことにしました。

村木:うん、うん。

山本:私は、親子まるまる支援ということもやっていて、実はあやちゃんだけでなく彼女の母親ともずっと文通しているし、定期的に彼女の妹たちの面倒をみにいったりもしています。そうやって関わってきた時間と経緯があって、深い関係にあったというのは大きいと思います。

村木:当事者の若者だけでなく、親子をまるごと支援するって、難しくないですか?

山本:とても難しいし、結局は見守ることしかできないなということも思います。ショートステイみたいな福祉サービスにつないだりするけれど、あくまでも決めるのはお母さんなので、つないでもそこで支援が途切れちゃったりすることもよくあります。途切れちゃったとしても支援機関につないだことで、地域の人たちがその家庭の状況を把握してくれるのは大きいと思います。だけど、それで問題が解決するかというと、そこまでにはいたらないですよね。

それから、生活保護につながったほうがいいだろうなと思っても、「私、自分でできます」って言ってしまうお母さんが多いということも感じます。頼ればいいのにって思うところもありますけど、その背景にはお母さんが経験してきたことがあったりもして。

たとえば、児童養護施設出身のお母さんで、17歳で妊娠して施設から出なければいけなくなったときに、「お前には絶対に育てられない」「子どもを産むのはすべてお前の責任だ」みたいなことを言われて、それがきっかけで絶対に誰にも頼らず子育てをするって強く思ってしまっているお母さんもいたりします。

村木:お母さんも、自分のやったことに対して責任を持とう、責任を持ちたい、っていう気持ちがすごく強くて、お子さんとしても、自分に対して(虐待を含めて)いろいろなものが来るけど、それを知っているだけに親を嫌いきれないっていうのはあるのかもしれないですね。

山本:子どもから情報を聞いているぶんには、「そのお母さんどうなの?」「一緒にいて大丈夫?」と思えても、やっぱりお母さんとも人と人として関わると、違ったものが見えてくるんですよね。

たとえば、みんなで車に乗っているときに、何気なく家族みんなが思い出話をしているのを聞いたりして、「この家族はこの家族で、自分たちなりの家族を守ってきたし、一緒に生きてきた大切な時間があるんだな」「その時間をないがしろにして支援はできないな」と思います。

あと、当事者の仲間同士でいても相手にすごく気を遣うし、水を買ってあげようとしただけでもお金に困っているはずなのに「大丈夫です、自分で買います」と言うような子が、親に対しては「あれやって」「なんでこれやってくんないの?」みたいに、わがままを言う姿を見たときに、親子だ!ってすごい感動したこともあります。そんなありのままを出せる相手がいたんだなと思うと、(支援につなげるために)親子を引き離すより、うまいかたちで家族が家族でいられるかたちができたらいいなと思います。

村木:片側だけから見ると「もう離れなよ」って思うけど、家族という見方をするとやっぱりそういう気分になるんだ。

山本:なりましたね、私は。がんばってきたんだろうなと。だからこそ、無理に親子を引き剥がしたりしようとせず、なんとなく見守りつつな感じですね。

みんな思っていることが違うことを知ってほしい

村木:ちなみにこの映画の撮影は、どのくらいの期間で?

山本:1年間ですね。しおんが映画のなかでいろいろな人に会いに行っていたのも実は生い立ちの整理を表現しようとしていたんです。人は自分の生い立ちやこれまでの人生をふりかえることで、気持ちが整理されたり浄化されたりするところがあると思っていて。それは虐待を受けていてもいなくても、みんなにとって大事なことだと私は思っているんです。

映画のなかでは5〜10秒しかしゃべっていない子のなかには、その子がどう生きてきて、何を伝えたいかをヒアリングして、どうする?みたいなことを4時間半くらいやった子もいて。映画を撮ることをとおして、その子と一緒に整理できたらいいなっていう思いで、全国の子たちにわざわざ会いに行っているのもありました。

村木:自分たちのことを「知ってほしい」「分かってほしい」っていう言葉が、映画のなかで何度も、何人もから出てきたことも印象に残っていて。たしかにそうだろうって思う反面、読めば読むほど、聞けば聞くほど、やっぱり人それぞれみんな違うっていうのも分かってくるから、勝手なイメージで決めつけずに“知る手段”っていう意味でも、あれだけの人が出てくれて、自分の言葉で思いを語ってくれてっていうのは、やっぱりすごくいいなと思いました。それだけですごい価値があるなと思って。

山本:ありがとうございます。映画には70名出ていて。メインストーリー2人と短いメッセージが58人、それから集まりで写ってくれた子をあわせると70名。虐待を受けた当事者といっても、みんな思っていることが違うことを知ってほしいし、それを大事にしたいと思っていたので、人数にはけっこうこだわりました。

村木:みんな、もともとつながっていた人?

山本:もともとつながっていた子も多いんですけど、つながっている子がいない県は、知り合いの支援者さんにつないでもらったり、旧Twitterで検索して「映画に出ませんか?」って連絡したりもしました。「初めて会うのに怖くなかった?」って聞いたら、「(事前にインターネットやSNSで)検索して怪しい人じゃないか調べました」って言われたりしたこともありました(笑)

虐待のその後の不自由と、親が悪いだけじゃないということ

村木:「知ってほしい」ということにつながるけれど、虐待を一度受けたら保護されて終わりじゃないっていうことは、支援に携わっていない普通の人にとっては想像しづらいですよね。

児童相談所につながって保護されたら「良かったね」で終わるし、18歳になったら「もう大人だよね、自力でがんばれるよね」みたいなものがあるから、若者支援っていうと「え?!」って言われることがまだまだあるんです。だから、虐待を受けたその後の不自由、その後の人生で抱えていくものが、この映画で見えたっていうのも、すごくよかったです。それがこんなにも重たいものだっていうことがよく分かりました。

あと、まこちゃんの本や今日のお話で、親御さんが大変だっていうこともよく伝わったから、それも大事なことだったと思います。虐待をするのは悪い親で、悪い親から引き離していい施設に入れたらそれで終わり、って思っている人は、やっぱりまだすごく多いから。

山本:映画の撮影でいろんな子に会って、私もびっくりしたんですよ。「親が悪い、だけじゃない」って、みんなからすごく教えてもらって。

ACHAプロジェクトの振袖の事業で会うときって、特別な日だから虐待を受けたことがある子たちもみんなめちゃくちゃ元気なんですよ。だけど、コロナ禍で伴走支援というか、より近くでみんなと接したときに、虐待の後遺症ってこんなに苦しいんだってことが分かって。私は保育の専門学校を出ていて、そこでも虐待の後遺症について学んではいたけど、本当の意味では分かっていなかったことにめちゃくちゃショックを受けました。

そして、それを知ったときに、世の中にも伝えたいと思ったんですね。でも、私一人だと伝えきれないから、それを知っているみんなに協力してもらった。そして撮っているなかで、それこそ「親が悪いだけじゃなくて」とか「親を助けてほしかった」みたいな思いをみんなが話してくれて。みんなからすごく教えてもらいましたね。

村木:施設に保護する、措置するって、それまでのつながりを全部捨てさせることでもあるんですよね。全部捨てさせてでも保護して、命を守らなきゃいけないという状況もあるとは思うんだけど、そんなに簡単なことじゃないなと、今日の映画を見ても思いました。

映画のなかで、しおんちゃんがふるさとに帰って父方のおじいちゃんに会ったとか、母方のおばあちゃんに会ったとか、昔住んでいた近所の人に会ったとか、そういう場面がいくつもあったじゃないですか。そのときに、本当に嬉しそうだったり、懐かしそうだったり、喜んでたりしたのを見て、これを全部捨てさせるのではなくて、もっといいやり方があったらいいんだろうと思ったし、そのためにも親に対するサポートがもっといるんだろうなとつくづく感じました。

映画『REALVOICE』
予告編がYouTubeで無料公開されています。また本編は、Amazon Prime Video、U-NEXTで配信中です。

予告編(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=r26eWKcKiHY

本編(Amazon Prime Video)
https://www.amazon.co.jp/REALVOICE-%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E6%98%8C%E5%AD%90/dp/B0FD9WNBCS

本編(U-NEXT)
https://video.unext.jp/title/SID0094704