特別対談

石田 寿株式会社伊藤園 執行役員
村木厚子首都圏若者サポートネットワーク 顧問

子どもたちの未来と、
企業にできること

自販機の売上の一部が「若者おうえん基金」への寄付となるチャリティ自販機が、株式会社伊藤園(以下、伊藤園)様のご協力によって設置されることになりました。
第一号の自販機設置が決まったのは、勝どきにある山九株式会社本社ビル。これを記念しておこなわれた伊藤園の執行役員・石田寿さんと首都圏若者サポートネットワークの顧問・村木厚子による対談の模様をお届けします。

※チャリティ自販機については、こちらのページをご覧ください。

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社会的養護と子ども・若者たちの困難

首都圏若者サポートネットワークでは、「若者おうえん基金」を立ち上げ、一般のみなさんから広く寄付を集めて、社会的養護を巣立った若者たちを応援する仕組みづくりに取り組んでいます。そのための方法の一つとして、伊藤園様のご協力によるチャリティ自販機を広げていきたいと考えています。
まずは村木さんから、首都圏若者サポートネットワークについてお話いただけますか。

村木:親と一緒に暮らせない子どもたち……親が死んでしまったとか、親と暮らすと大変なことになるという子どもたちを、行政の仕組みで施設や里親でお預かりして育てるっていうことが、社会的養護といってずっとやられています。戦争直後の孤児院などがスタートなんですけど、最近は虐待を受けたお子さんたちが多いですね。
児童相談所や児童養護施設というような施設の職員さんや、里親さんたちも非常に努力していて、そういう子どもたちを保護したり育てたりっていうことを一生懸命やられています。

社会的養護と子ども・若者たちの困難

ただ、行政の発想としては児童福祉っていう領域になるので、子どもたちへの支援は基本的に18歳までなんですね。18歳までに支援につながった子たちは、その後も2年間は応援しますよ、4年間は応援しますよと、少しずつ制度も拡大されてきてはいます。ただ、施設を出た後、うまく進学して、就職してっていうふうにいく子ばかりじゃないんですね。
そうすると、施設を出た後でつまずくと、もう頼る場がない。もともと親御さんに頼れなくて……という子たちなので。あるいは(虐待など)大変な家族だけど、「自分がなんとかしなくちゃ」って家庭に戻る子たちもいます。もう一つ深刻なのは、我慢して我慢してどこへも行かず、児相にも相談せずに頑張ってきて、やっと家から独立したけれども、「一人ではなかなかやっていけません」という子たち。
そういう子たちを支援する制度が、いまはほとんどないんですね。じゃあ誰がそういう子たちを支援しているのかというと、社会的養護(の施設など)で働いているとか、そういう若者に近い所で仕事をしている人たち。そういう人たちが見るに見かねて、もう本人たちのパッションで、お金は持ち出しで、みたいなことになっているんですね。

子ども・若者を応援するための
ネットワーク

村木:首都圏若者サポートネットワークというのは、気がついたからにはなんとか頑張っている子どもたち・若者たちと、それを一生懸命応援している支援者とを、まず自分たちで応援しようと。
応援していくなかで、いろんなことが分かっていく。その間には、もうちょっとしっかりした法的な支援もつくれるかもしれないと。とにかくまずは気がついたわれわれが動こうっていうことで立ち上がった団体なんです。

子ども・若者を応援するためのネットワーク

石田:そういう趣旨で立ち上がった団体なんですね。これまで長い期間活動されていた団体が、この分野にも幅を広げたとかではなくて、新しく立ち上げられたと。
組織概要を)拝見すると、ずいぶん幅広く、いろいろな方が参加されているようですね。幅広い。

村木:ずいぶん志のある方が集まっています。
いろいろな団体や個人が集まって運営委員会をつくっているんですけれど、子どもの貧困って、それぞれの団体のなかでもみんなが気になっていたみたいで。研究会を立ち上げて、何が一番緊急か、誰が一番つらい状況かっていろいろ検討した結果、やっぱり「まずここだろう」っていうことでいまの活動につながりました。
特に私は役人として児童の担当も3年やったので、かなり自責の念というか、「やれてなかったぞ」と。分かってはいたんですけど、「やっぱり手が足りてないところがこれだけあったか」と、思いを新たにしました。

勉強会や調査・検討をはじめてから実際に活動をはじめるまでに、3年くらいかかっています。私(首都圏若者サポートネットワーク事務局長・池本)自身、児童養護施設に行ったこともなかったのですが、実際に行ってみていろいろなことを知りました。

子ども・若者を応援するためのネットワーク

たとえば高校を中退しちゃったら、施設から出なくてはいけない。そうすると子どもたちは、住むところを見つけて、働く場所も探さないといけない。そういう子どもたちの受け皿として自立援助ホームというのがあると知りました。そこで暮らしつつ、働きながら貯金など生活の基盤をつくっていく。そういう独り立ちの支援をしています。
さらに20歳を超えたら、自立援助ホームにはいられません。ホームを出て困った人たちを支援する必要がある。そこで児童養護施設や自立援助ホームを出た人たちの相談支援をおこなうアフターケア事業が存在します。この事業所はまだ全国で20~30くらいしかありません。都道府県数より少ないですが、そういう駆け込み寺みたいな場所ができつつあります。
そういう現状を知っていくと、「制度のはざま」という言葉が実感できます。ただ、村木さんが「制度をつくっていかないといけない」と言われるからこそ説得力の出るところがあって。村木さんは、まさにさまざまな制度をつくられてきた方なので。

村木:忸怩(じくじ)たるものがあります。

石田:そのとおりですよ。「なんでここに穴が開いているんだ」とか、分かってしまうんですよね。(制度のことが)分からないと、分からないだけで終わってしまいます。それはもう(村木さんは)発信力がぜんぜん違いますよ。

一番気になるニュース

村木:こういう話をすると、なんかあれなんですけど、児童の仕事をやっているときに逮捕されて、拘置所に入ったんですよね。

石田:あの事件ですか……

一番気になるニュース

村木:あの事件があって、起訴休職っていって自動的に休職っていう身分になったんです。もう仕事が一切なくなって、ポジションもなくなって。そういう一種真空状態のときに、ラジオのニュースだけは毎日聞けるんですね。
すごく面白かったのは、自分にとってなんのニュースが一番気になるんだろうと改めて考えてみたことです。仕事がないっていう状況で、どのニュースが気になるかって。そうしたら一番聞くのがつらかったのが、児童虐待のニュースだったんですよ。
私はもともと(厚生省ではなく)労働省に入ってるんで、福祉は自分のライフワークとしてずっとやってきたっていうものでもなくて。だけど何が一番つらいかっていうと、児童虐待だったんですね。
やっぱりここが一番大人として責任が重いんじゃないのかなっていう気がしたんです。日本の児童養護の支援を受けている子どもたちって、他の先進国に比べると数が少なくて。たぶん発見されてないんです。

石田:そういう意味ですか。存在しないということではなくて。

村木:発見されてないだけだろうって、専門家の人たちは言っています。特に幼い子の命が一番怖いので、まずはそこの発見と支援を一生懸命やってるんです。死んじゃうのは、0歳が一番多くて、3歳までの子が大半なんで、ここをなんとしても見つけて助けなきゃいけない。
そこから年齢が上がって、命の危険みたいなところから少し遠くなった子どもたちっていうのは、どうしても手薄になるっていう……言い訳ですけどね。

石田:われわれ企業では、直接はできませんけれども、間接的な形で支援はさせていただきたいと思います。

村木:子どもを大事にしようっていうこととか、いま支援が要る子がいますよっていうことが、ちょっとでも伝わるとずいぶん変わってくるかなと思って。

石田:そうですね。

「18歳で独り立ち」の厳しさ

「18歳で独り立ち」の厳しさ

村木:失礼ですけど、お子さんはいらっしゃいますか。

石田:おります。はい、娘が一人。

村木:私も娘が二人いるんですけど、何歳になっても子どものことって親は心配なんですよね。

石田:そうですね。今でも心配ですよ。

村木:まして18歳になったら「もう独り立ち」と。「親は一切支援しないよ」っていうおうちってないと思うんですよね。

石田:そうですね。少ないと思います。

村木:ですよね。自分の子育てを考えたときに、「18で独り立ちしなさい」「あとは一切どこからも支援はありませんよ」っていうのは、いまの社会では本当に厳しい。
病気になろうが、つまずこうが、行った職場がブラックな企業で体を壊そうが、辞めざるを得なかろうが、「もう18歳以上、法律では児童ではありません」とか、「20歳、もう成人です」って言ってしまうのは……やっぱり少なくともどこかに相談できないと。本当に困ったら助けを求められる場所がないっていう、こういう状況はなんとかしたい。
ですから首都圏若者サポートネットワークのこれからの事業で、子どもたちにずっと寄り添って伴走型支援をしてる人たちに対して、せめてお金できちんとサポートをできるように。それからいずれは就労支援ですね。自分で働いて自立をしていくことの応援を。
それからそういう支援をするなかできちんと調査研究もして、社会の仕組みとして必要なことは何かっていうのをちゃんと深く考えていく。最後はこの問題を広く知ってもらうっていうところですね。この辺りを中心に活動をしていきたいので、ぜひご支援をお願いします。